「審査官からみた拒絶理由」
まず、審査官は、大雑把にいえば、毎日、新しい出願の審査を1件、拒絶理由への対応を1件か2件、行わなければいけません。1日が8時間とすると、新しい出願の審査には4~6時間、拒絶理由への対応には1~2時間しかかけることができない、ということです。しかも、これは、本願理解、意見書の理解、(外注も多いですが)引用例のサーチ、引用例の把握、起案までの合計時間です。拒絶理由にかける時間、意見書の対応にかける時間が限られていますから、審査部では「完璧な審査は無理」というのが実情です。
審査官は、引用例の隅の方の記載も引用しますから、「よく読んでいるよね」と思っている方も多いかもしれません。確かに、多くの文献を読みますし、1件当たりの読む速度も速いと思います(文献を速く読めるから、多くの文献を読める)が、引用例に採用した文献でも、文献を読むのには通常5~10分程度の時間しかかけられません。つまり、「同じ考えが書いてある(ポイントは同じ)よね」という印象で拒絶理由は書きますが、「引用文献の発明を隅から隅まで理解」している訳ではありません。どうしたって、本願と結構似ているよね、という印象で拒絶理由を出しますから、ちょっと本願寄り(いわゆる後知恵)の理解をしてしまう場合もありますし、細かく引用例を読むと違っている、ということもあります。
これは、出願人(代理人)とすれば、「審査官は常に正しい」というのではなく「審査官も間違っているかもしれない」という前提で、拒絶理由に対応することが必要、ということを示しています。
たまに「意見書で反論すると、印象が悪くなって拒絶査定を食らうのでは?」という声を聞きますが、元審査官としては「ほぼあり得ない」です。ごく稀に「バカ」とか罵詈雑言を書く人もいます(かつては、ワープロの4倍角(!)で罵詈雑言を書く人もいました)が、判断に影響しないことにかける時間はありません。意見書では、「相違点」として何を主張しているのか、どこにサポートされている主張しているのか、ということに集中しています。罵詈雑言は、単なる出願人の感情ですが、出願人の感情は査定には影響しませんので、罵詈雑言に反応する時間は無駄です。罵詈雑言は無視です。
過去には、「引用例は審査官がねつ造したものだ!」と東京地検に告訴(?)をした人がいたようで、審査室に特捜部の検事さんが来たことがあります。皆さんが心配している程度の反論などは、可愛いもの、というのがお分かりいただけたでしょうか?
反論で見解が影響されることはあり得ませんし、それどころか、言いたいことがあるなら言って欲しい、という思いで拒絶理由を書いている審査官は多いです。特に1回目の拒絶理由は「もし違っていたら、何か文句言ってくるでしょ?」という思いで出している場合もあります。
また、「ここを主張したら許してもいいかな」という場合もあります。
審査官は、本願の理解として、この明細書からすると「きっとこうなっているんだよね」と理解した場合でも、明記していないことを自ら認定することはしません。それは、万が一にでも、新しい発明を作ってしまってはダメだからです。しかし、出願人が「書いていないけど、技術常識を踏まえれば、実際はこうなっています」という主張をすれば、「やはりそうだったか」ということで認める場合もあります(ここは審査官によりますが)。
ともかく、審査官としては、「何か間違ったことや見解の相違があれば、言ってほしい」というのが実情です。拒絶理由に反論しなかった点は、「出願人も同じ見解だ(=容易と思っている)」と、審査官は思います。
また、拒絶理由の内容が理解できない場合は問い合わせて「審査官は何を言いたいのか?」を聞きましょう。「要は、こういうことです」と答えてくれる審査官も多いです。頓珍漢な対応をされるよりも思いを受け止めて対応してくれた意見書は、内容に同意はできなくても(審査官は、拒絶査定をしますが)嬉しいものです。