独立クレームの設計
技術第3部長 太田友幸
独立クレームは、発明の技術的範囲を定める出願の中核要素です。
その設計(クレーム設計)は、技術者の経験や出願目的、技術分野により異なります。
私自身、20年近い実務経験でクレーム設計に対する考え方が大きく変わりました。
本稿では、私が現在重視するクレーム設計の視点をご紹介します。
唯一の正解はありませんが、一つの考え方として参考になれば幸いです。
■発明の本質を特定し、最小限の構成で記載する
近年私は、「発明の本質を特定し、最小限の構成でクレームに記載すること」が重要だと考えています。
一見当然ですが、“最小限の構成”の実現は容易ではありません。
余計な構成を排し発明の核を適切に表現すれば、自社製品を守りつつ他社を牽制し、回避されにくい特許権を得られます。
私は独立クレームの要件を次の3点としています。
(1)発明の本質を捉える
(2)簡潔に記載する(目安:250文字以内)
(3)不要な構成を含めない(目安:3~5要素)
まず要件1を満たし、そのうえで要件2、3を検討します。
これを実現する設計プロセスは次のとおりです。
・ステップ1:発明の本質を把握する
・ステップ2:最小限の構成で記載する
■ステップ1(本質の把握)
私が考える“発明の本質”とは、課題解決のために採用された実施形態を含む技術的思想の核です。
その手がかりは、発明者の資料や説明の中に必ず現れています。
発明の本質を把握するため、次の3点を重視しています。
・課題を正確に把握する
・採用された実施形態を把握する
・実施形態を抽象化して捉える
■ステップ2(クレームの記載)
発明の本質を把握した後は、それを最小限の構成でクレーム化します。ステップ2は、クレーム設計の核心です。
ただし、最初から最小限の構成で書くと、かえって時間がかかる場合があります。
そこで、次の2段階を踏むようにしています。
ステップ2.1:実施形態に基づくクレーム作成
ステップ2.2:抽象化によるクレーム再構築
■ステップ2.1(実施形態に基づくクレーム作成)
ステップ1で把握した実施形態に基づきクレームを作成します。
ここでは文字数や構成数を気にせず、必要と思う要素をすべて盛り込みます。
結果として、実施形態に忠実な、比較的狭い技術的範囲のクレーム(ドラフト)ができます。
多くの場合、このドラフトは、要件1~3を満たしません。
このドラフトを基に、次のステップ2.2で完成形へ仕上げます。
経験を重ねると、この段階で完成形に近いクレームができることもありますが、そのまま完成形とせず、必ずステップ2.2を経ています。
■ステップ2.2(抽象化によるクレーム再構築)
次に、ステップ2.1のドラフトを基に、課題を解決できる他の構成も含むようクレームを抽象化します。
ただし、抽象化しすぎると広すぎるクレームとなるため、先行技術を踏まえた調整が必要です。
この段階で要件1を満たし、続いて要件2、3を意識してクレームを練り込みます。
次に、“断捨離”の視点で、クレームから不要な記載および構成を整理します。
重複や曖昧な記載など、なくても内容が変わらない記載は削除します。端的に書くことで、文字数削減と意図しない限定の回避につながります。
また、発明の本質に不要な構成を削除します。
以前は「あって当然の構成だから」や「ないと不安な構成だから」といった理由で残しがちでしたが、
技術的範囲を狭めるリスクを強く意識し、削除を前提に検討します。
なお、明確性違反やサポート要件違反が懸念される場合もありますが、審査で実際に指摘されることはほぼありません。
また、仮に指摘されても、明細書に適切なサポートを記載しておくことで、対応に困ることはありません。
こうしたプロセスを経て、最終的に要件1~3をすべて満たすクレームが完成します。
■終わりに
上述の設計プロセスは、多くの場合、一度で完結せず、ステップ2を繰り返し、必要に応じてステップ1に戻ります。
特にステップ2の後半では、表現が煮詰まらなくても妥協せず、粘り強く検討を重ねる姿勢が重要です。
経験を重ねれば、ステップ1で抽象化が進み、発明の本質を整理でき、クレームの構成を早期に定めて要件3を自然に満たすことも可能です。
また、要件2は、実務を通じて“表現のデータベース”を蓄積することで、徐々に強化されます。
ここで示した独立クレームの要件は一例であり、出願目的や技術分野に応じて独自に設定可能です。
本稿が、クレーム設計に取り組む際の一助となれば幸いです。