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「インド特許法の特殊性」

技術第2部部長:木曽孝

 近年、インドへの特許出願(国内移行)の依頼が増えています。イギリス特許法をルーツとするインド特許法は、ドイツ特許法をルーツとする日本特許法とは異なる点が多くあります。特に、実務で多用される「補正」や「分割出願」において、日本よりも格段に厳しい制限があるため、戦略的な対応が求められます。

1.補正の厳格な制限

(a)補正要件(第59条)

 インド特許法では、補正後のクレームは、補正前のクレームの範囲内に収まらなければならない(fall wholly within the scope of a claim)と規定されています。

 日本では、拒絶理由への応答時に、シフト補正(発明の主旨の変更)とならない範囲で構成要件を削除したり、明細書から新たな要素を追加したりすることが比較的柔軟に認められます。しかし、インドでは、構成要件の削除による権利範囲の拡大は認められず、原則として構成要件を追加する「限定的減縮」のみが許容されます。

(b)自発補正の制限

 日本では、審査開始前であれば明細書の範囲内で自由に自発補正が可能ですが、インドでは自発補正であっても上記の第59条の制限が適用されます。そのため、国内移行時等にクレームを拡げたり、異なる技術的特徴へシフトしたりする補正は認められません。

 また、インドでは自発補正を認める(enter)か否かは長官の裁量に委ねられており、実務上、審査官が自発補正を無視して当初のクレームに対して審査報告書(FER)を発行するケースも散見されるため、注意が必要です。

2.分割出願

(a)分割要件(第16条)

 インドでは、日本と同じ感覚で「とりあえず分割して権利を確保する」ことは困難です。

 インドで分割出願が認められるためには、親出願の明細書中に「複数の発明(Plurality of Inventions)」が開示されていることが必須です。

 特に自発的な分割の場合、親出願と分割出願の間で、技術的特徴(Special Technical Feature)が明確に異なること(単一性が無いこと)を客観的に説明できなければなりません。

(b)孫出願の可否

 分割出願に基づくさらなる分割出願(いわゆる孫出願)の可否については、実務上長く議論の的となっていました。

 しかし、2024年3月の規則改正(特許規則13(2A)の新設)により、先行する分割出願の中に開示されている発明に基づき、さらなる分割出願を行うことが可能であることが明確に規定されました。これにより、連鎖的な分割出願の法的な不確実性が解消されています。

3.「補正制限」と「分割制限」の板挟み

 日本の実務では、補正が「新規事項」や「シフト補正」として拒絶された場合、その内容を分割出願に回して権利化を図るのが定石です。

 しかし、インドでは、前述の「補正の制限(第59条)」と「分割の制限(第16条)」の板挟みにより、所望の権利が得られないリスクがあります。

 例えば、「A+B+C」というクレームを「A+B+D」に補正しようとした場合、補正制限により認められない可能性が高いです。そこで「A+B+D」を分割出願しようとしても、親出願の「A+B+C」と構成の大部分(A+B)が共通しているため、「別個の発明(複数性)がない」あるいは「二重特許」とみなされ、分割出願が認められないおそれがあります。

4.戦略的な対応

 上記の通り、インド特許法では、「補正」や「分割出願」に厳しい制限があるため、以下のように、出願(PCT出願、パリ出願)の段階から戦略的な対応を採ることが肝要です。

(1)出願時におけるクレームの充実

 インド国内移行後の「拡張」は不可能であるため、出願時の段階から、構成要件の少ない広い独立クレームを作成する、あるいは、複数の独立クレームを作成しておく等、インド特有の制限を意識したクレーム設計を行う。

 また、出願時の段階から、従属クレームを多層的に作成し、補正の「選択肢」を確保しておく。

(2)「発明の複数性」を意識した明細書の作成

 分割出願が認められるために、明細書の記載を、単に「実施例」を羅列したものとするのではなく、それらが「別個の発明」として認識されるようにしておく。

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