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AI関連発明の明細書作成実務

AI関連発明の明細書作成実務:米国先例Desjardins決定とJPO審査事例を踏まえて 

技術第1部部長:大貫航

1. 米国:先例指定による緩和

AI・機械学習関連の出願において、これまで米国特許実務の大きな壁となっていたのが特許法101条(特許適格性)です。しかし昨今、このハードルには一定の変化が見られます。2025年11月、USPTOのJohn A. Squires長官は Ex parte Desjardins決定 を先例(Precedential)に指定し、AIモデル自体の改良が「技術的改善」として説明できる場合には、101条をクリアし得ることを明確にしました。

2. 米国:101条は「入口」に過ぎない

もっとも、101条をクリアした後には、103条(非自明性)というより本質的な審査が待っています。実際、Desjardins決定においても、101条は克服したものの、最終的には「パラメータ調整は周知技術の適用に過ぎない」として103条で拒絶されました。AI発明の審査においては、特許適格性よりも、従来技術との差異が実質的に問われる「非自明性」の議論が主戦場となっていくと考えられます。この傾向は日本の審査実務にも近いと考えられます。

3. 日本:JPO「事例の全体像」に見る進歩性の境界線

日本の特許庁(JPO)が公表している「AI関連技術に関する事例について」の中の「進歩性に関する事例の全体像」を見ると、AI発明の進歩性判断には一定の傾向が見られ、概ね次のように整理できます。

カテゴリ 進歩性が否定される傾向(NG) 進歩性が肯定される傾向(OK)
生成AIの適用 人間の業務を生成AI(LLM等)で単にシステム化したもの 生成AIを適用する際の制約条件の付加など
業務のシステム化 熟練者の判断・調整作業をAIに単純に置き換えたもの 人間が通常考慮しない新しいデータ項目の活用など
推定手段の変更 従来の計算式を単に公知のAI手法に変更したもの 独自の損失関数の設計など学習方法の工夫
教師データの変更 既知データの単なる組み合わせ 従来関連性が低いと考えられていた相関データの導入
前処理 学習精度を高めるための独自のデータ加工・前処理


この整理からも分かるように、AI発明においては「AIを用いた」という点自体よりも、教師データの設計、学習方法、前処理などの具体的な技術的工夫が進歩性判断の重要な要素となっています。

AI関連発明の明細書において極めて重要なのは、単に「AIを使って精度を上げた」という結果(効果)だけでなく、「なぜその構成を採用したのか」という技術的合理性を明確にすることです。例えば、特定の入力データを選定した技術的背景や、学習プロセスにおける独自の工夫、特定の課題に対する解決手段としての必然性を精緻に記載することで、発明の技術的意義をより強固に示すことができます。

4. 弊所の取り組み

AI関連発明の権利化においては、こうした技術的工夫を適切に言語化し、発明の本質を明細書の中で明確に表現することが重要になります。弊所では、ご依頼案件において発明者の方との議論を通じて技術的背景や設計意図を丁寧に整理し、こうした観点から発明の工夫点を掘り下げることに注力しています。その上で、審査段階で技術的意義が適切に伝わるような明細書作成を心がけています。

 

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