例題 ヒータ装置 1
PCT/JP2019/025022

【設問】
本件出願は、ISRにおいて、引例の組合せで進歩性が否定されています。
そこで、ISRを見た上で、指定国で審査を受ける、引例を回避しつつも権利行使が容易なクレームを提案してください。

【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
基材と、前記基材の表面内の第1領域において電熱線部を構成すると共に、当該第1領域から第2領域まで引き回されるように、パターン形成された第1金属線と、前記基材の表面内の前記第2領域において、前記第1金属線から離間して、前記第2領域に延在する前記第1金属線と対向するようにパターン形成された第2金属線と、前記基材の表面内の前記第2領域において、前記第1金属線と前記第2金属線との間を電気的に接続しPTCヒータ部を構成するようにパターン形成されたPTC発熱体膜と、前記電熱線部と前記PTCヒータ部との直列接続体の一端と他端に接続された第1及び第2端子と、を備えるヒータ装置。

【発明の名称】ヒータ装置、ヒータ装置の製造方法、及び車載カメラ
【要約】
基材1と、基材1上の加熱対象領域Ca1から加熱対象領域外Ca2まで引き回されるようにパターン形成された電熱機能を有する第1の配線2と、基材1上の加熱対象領域外Ca2において第1の配線2に対向する位置にパターン形成された第2の配線3と、互いに対向する第1の配線2と第2の配線3とを接続するように配設され、第1の配線2と第2の配線3との一方から他方に通流する電流を制御するPTC機能部R1を構成する発熱体膜4と、を備えるヒータ装置。

解説 <ヒータ装置>
PCT/JP2019/025022

1.基礎出願時のクレーム

【請求項1】
基材と、前記基材の表面内の第1領域において電熱線部を構成すると共に、当該第1領域から第2領域まで引き回されるように、パターン形成された第1金属線と、前記基材の表面内の前記第2領域において、前記第1金属線から離間して、前記第2領域に延在する前記第1金属線と対向するようにパターン形成された第2金属線と、前記基材の表面内の前記第2領域において、前記第1金属線と前記第2金属線との間を電気的に接続しPTCヒータ部を構成するようにパターン形成されたPTC発熱体膜と、前記電熱線部と前記PTCヒータ部との直列接続体の一端と他端に接続された第1及び第2端子と、を備えるヒータ装置。

【コメント】
構成要件は、基材、第1金属線、第2金属線、PTC発熱体膜、第1及び第2端子、の5つです。
精緻な記載ですが、その分、いくつかの限定的な記載が含まれています。また、「第1領域」「第2領域」「パターン形成」という記載がありますが、この記載が曖昧ですので、要検討です。
方法の発明についても、上記構成を前提に、各工程が詳細に定義されています。このような詳細な説明的な記載は、権利行使の相手方に反論の機会を与えることになるため、できるだけ記載しないようにします。
不要な抵触議論を回避するため、特許性に影響する発明の特徴部分以外はなるべく記載しない、ということです。

2.PCT出願時のクレーム

【請求項1】
基材と、前記基材上の加熱対象領域から加熱対象領域外まで引き回されるようにパターン形成された電熱機能を有する第1の配線と、前記基材上の前記加熱対象領域外において前記第1の配線に対向する位置にパターン形成された第2の配線と、互いに対向する前記第1の配線と前記第2の配線とを接続するように配設され、前記第1の配線と前記第2の配線との一方から他方に通流する電流を制御するPTC機能部を構成する発熱体膜と、を備えるヒータ装置。

【請求項2】
前記第1の配線と前記第2の配線とは同時に印刷される、請求項1に記載のヒータ装置。

【コメント】
PCT出願時のクレームです。
基礎出願のクレームと比較すると、構成要件を、基材、第1の配線、第2の配線、発熱体膜の4つにした点、各構成要件の記載が簡素化された点で、基礎出願と相違します。説明的記載が少なくなり、幾分すっきりしましたが、「パターン形成」なる記載が残っています。

3.早期審査請求時の補正

【請求項1】
基材と、前記基材上の加熱対象領域から加熱対象領域外まで引き回されるようにパターン形成された電熱機能を有する第1の配線と、前記基材上の前記加熱対象領域外において前記第1の配線に対向する位置にパターン形成された第2の配線と、互いに対向する前記第1の配線と前記第2の配線とを接続するように配設され、前記第1の配線と前記第2の配線との一方から他方に通流する電流を制御するPTC機能部を構成する発熱体膜と、を備え、透明体を介して車外を撮影する車載カメラに適用され、前記透明体の表面上の前記車載カメラの撮像領域に取り付けられる、ヒータ装置。

【コメント】
早期審査に先立って、引例の調査範囲を限定するため、本件発明のヒータ装置は、フロントガラスの車載カメラの撮像領域の防曇用のヒータであることを明確にする補正をしました。審査において、上記請求項は、そのままの状態で特許されました。
上記クレームが特許されましたので、より行使し易い特許を取得するために、特許査定後に分割出願を予定しています。どのようなクレームで分割出願すべきでしょう。

4.分割出願クレーム案

【請求項1】★第1の配線と第2の配線とを、自己温度制御機能を有する発熱体膜で接続する。
基材と、前記基材上の加熱領域から加熱領域外まで配設された電熱機能を有する第1の配線と、前記基材上の前記加熱領域外において前記第1の配線に対向して配設された第2の配線と、対向する前記第1の配線と前記第2の配線とを接続する、自己温度制御機能を有する発熱体膜と、を備えるヒータ装置。

【請求項2】★配線層と自己温度制御機能を有する被膜層との2層構造とする。
基材と、前記基材上の加熱領域から加熱領域外まで配設された電熱機能を有する第1の配線と、前記加熱領域外において前記第1の配線に対向して配設された第2の配線と、を含む配線層と、自己温度制御機能を有し、対向する前記第1の配線と前記第2の配線とを被覆して接続する被膜層と、を備えるヒータ装置。

【請求項3】★配線層、被膜層を2回の印刷により形成する。請求項2+プリント配線
基材と、前記基材上に印刷され、前記基材上の加熱領域から加熱領域外まで配設された電熱機能を有する第1の配線と、前記加熱領域外において前記第1の配線に対向して配設された第2の配線と、を含む配線層と、前記配線層上に印刷され、自己温度制御機能を有し、対向する前記第1の配線と前記第2の配線とを接続するように配設された被膜層と、を備えるヒータ装置。

【コメント】
先の特許クレームと比較すると、特許性に不可欠ではない記載を削除したより簡素な表現のクレームです。請求項1の構成要件は、基材、第1の配線、第2の配線、発熱体膜(被膜層)の4つ、請求項2、請求項3の構成要件は、基材、配線層、被膜層の3つです。請求項3は、2回のプリントで配線が完了するため、製造上重要なクレームです。これらのクレームは、いずれのクレームも、抵触議論の余地は殆どありません。

【クレームの作成の仕方】
1.発明の特徴を一言で言えばどういうことか、最低限必要な構成要件は何かを考えます。
2.次いで、その構成要件を定義する説明文を考えます。
3.その後、進歩性に影響しない記載を削除する調整を行います。

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